「お客様のおっしゃることに反論してはいけない。」
「お客様が『白』と言えばそれが本当は『黒』でも『白』。」
サービス業では特に従業員の心得として良く言われることです。
100%それを守っているとは言えませんが、そのくらいの気持ちで
仕事をしているサービス業の方々は多いことでしょう。
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私がまだ20代前半のころです。
とあるケーキ屋さんでアルバイトをしていました。
ある日、お客様がホールケーキを買いに来ました。
そこで私と、他のアルバイト店員は
「ロウソクは何本ご用意しましょうか?プレートには
何とメッセージを入れましょうか?」
とお客様にたずねました。
そのお客様グループは
「ああ、そんなのいらない。パイ投げに使うだけだから。」
と笑いながら答えました。
コントなどで、生クリームたっぷりのパイを投げますよね。
あれに使うと言うんです。
(※コントで使用しているのは本物のパイではなく
『パイ投げ』用の物体なのだそうですね。)
私達アルバイトは絶句。
その中で一番若かった店員が思わず
「そんな理由でしたらお客様にはケーキはお売り出来ません!
お店の人が毎日一所懸命ケーキを作っているんです!」
と、お客様にお断りの言葉を口にしました。
するとお客様、悪びれることなく
「え?ああ、じゃあ食べる食べる。だからちょうだい。」
「絶対食べないだろ。」と皆、内心思いましたが、さすがにそこまでは
反論出来ませんので、お客様にケーキをお売りしました。
この様子を奥で見ていたお店のマネジャーさんが私達を呼び
注意をしました。
「あのね。私達はお客様が『ケーキをください。』って言ったら
どんなことにケーキをお使いでも、それはお断りしてはいけないの。
お仕事なのだから。」
目を丸くしていた私達にマネジャーさんは続けました。
「しかしながら、『パイ投げ』に使うというのはヒドイけどね。
あらかじめ言っておいてくれれば、ケーキの端切れとか
砂糖を入れない生クリームとかで『パイ投げ』用に作るなどの
対応も出来たかもしれないね。」
と。
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私は今、「アルバイト」ではなく「責任者」の立場になりました。
もし、「パイ投げ」のようなお客様が来たらどのような対処をするでしょう。
若いアルバイト店員のように、お断りするでしょうか。
それともぐっとこらえて、マネジャーさんのような対応をするでしょうか。
自分でも良くわかりませんが、旅館のことを思えば思うほど
若いアルバイト店員と同じ気持ちになるんじゃないでしょうか。
誰だって、自分のお店の商品が大事なことにかわりありませんから。